2024年05月16日

【報告文】第122回 VIDEO ACT! 上映会 〜仮設住宅で見つめる自己〜

上映作品『風に立つ愛子さん』 

 2024年5月9日、第122回 VIDEO ACT!上映会を行いました。上映作品は、『風に立つ愛子さん』(監督:藤川佳三/2022年/75分)。約20名の参加がありました。今年2024年の元旦に「令和6年能登半島地震」が発生。5カ月が経過しました。震災復興後、どの地でも起こりえる問題が描かれている本作を選考し、上映しました。

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 2012年、監督の藤川佳三さんは『石巻市立湊小学校避難所』を発表されます。本作は、その続編にあたります。2011年3月11日に起こった、東日本大震災。津波で被災した宮城県石巻市在住の村上愛子さん(当時69歳・通称:愛子さん)と藤川監督は、湊小学校避難所で出会います。その後も愛子さんを取材し続け、亡くなられる2018年までの8年間が綴られた作品です。

 前作『石巻市立湊小学校避難所』の舞台となった避難所は、当時1千名くらいの人々が避難されていました。石巻市内で最大級の避難所だったそうです。石巻市とは縁もゆかりもなかった藤川監督。知人の映画作家の紹介で、初めて避難所を訪れます。2011年4月21日のことでした。それから避難所が閉鎖する10月11日までの約半年間、避難所に滞在しながら撮影を続けたといいます。

 『石巻市立湊小学校避難所』では、愛子さんと小学生のゆきなちゃん(当時10歳)の関係性を軸とし、主に7名の被災者の姿が描かれていました。10月に避難所が閉鎖されるまでが前作で描かれていました。その後、仮設住宅、復興住宅と住居が変わっても藤川監督が絶えず交流をし続けたのは、愛子さんのみ。その理由は、愛子さん自身が身内と交流を一切絶っており、高齢で独り暮らしを続ける愛子さんのことが、藤川さんは心配だったからです。

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  『風に立つ愛子さん』の主な舞台は仮設住宅です。独り暮らしの愛子さんは、藤川さんのカメラの前でたえずおしゃべりをしています。生活のすべてを奪ったはずの津波に「様」と敬称をつけたり、「あの津波は、私にとって幸せ運んできたの」と語るのです。
 率直なところ、津波に「様」を付ける表現に、私は強い違和感を覚えました。しかし、愛子さんの表情は真剣です。おしゃべりは、高校に進学せず、結婚を選ばず、長い間家族の介護や援助をしてきたこと。そんな紆余曲折の半生が思い出話で語られます。映画が進むにつれて、愛子さんが、津波に「様」を表した意図が、少しずつですが感じられるようになります。

 「この長屋住まいで、心豊かになれた。裸一貫の清々しさがあった。何もないのが良かった。あの頃には戻れない」と避難所での生活を振り返る愛ちゃん。仮設住宅ではご近隣との交流はあるのですが、部屋の中での一人語りは異なります。愛子さんと藤川監督との関係性が映像を通して伝わってきます。魂の交流、または恋愛関係に似た感触を私は感じました。
 2017年、76歳になった愛子さんは復興住宅へ転居します。仮設住宅とは異なり、外壁の防音もしっかりしています。隣近所とのお付き合いが乏しくなったことも要因かもしれません。悲しいことに、転居から半年後、愛子さんは亡くなりました。
 上映後 「愛子さんが生きていれば、この映画は生まれていない」と言い切った藤川さん。取材中に愛子さんが語ったという、印象深い言葉を紹介してくれました。

 「私のことを見つけてくれてありがとう」

 これは、 藤川監督だけでなく、私たち観客へのメッセージでもありますね。

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『風に立つ愛子さん』をスクリーンで拝見するのが、実は2回目の私。2023年9月に渋谷・光塾で開催された試写会が初見でした。その際、私には内容が良くくみ取れませんでした。
 その理由として思い当たることが3つあります。1つめは、愛子さんのハイトーンな声に、正直なところ中盤から疲れてしまったこと。2つめは、プライベートな内容の作品に沿った、監督による主観ナレーションなのに、朗読を他者に委任していることで生じる違和感。3つめは、本作にあまり自信を持っていないオーラを藤川監督に感じたことです。

 今回、ビデオアクト上映会で再見したことで、試写で感じたことは軽減しました。それは上映会後の藤川監督が、活き活きと本音で話されていたからだです。
 「実のところ、本作は編集し直したいと考えている。現行ヴァージョンには、僕が逃げていた要素がある」と語った藤川監督。その言葉が、私にはゾクゾクするくらい嬉しかった。藤川監督が本作にモヤモヤ感じていた部分を編集でスッキリさせれば、もっと沢山の観客に「愛子さん」と出会ってもらえると確信します。再編集版の完成を期待しています。 (文責:土屋トカチ)

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posted by VIDEO ACT! スタッフ at 20:56| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月07日

第122回 VIDEO ACT! 上映会 〜仮設住宅で見つめる自己〜 上映作品『風に立つ愛子さん』

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■ 第122回 VIDEO ACT! 上映会 〜仮設住宅で見つめる自己〜
上映作品『風に立つ愛子さん』
(2023年/75分/監督:藤川佳三)
http://www.videoact.jp
http://videoact.seesaa.net/
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■2024年5月9日(木)18時40分より
東日本大震災で被災した石巻市の女性。
避難当時69歳だった愛子さんは、避難所で「愛ちゃん」の呼び名で慕われた。
明るいキャラクターで周りを笑顔にした愛子さんは
仮設住宅での1人暮らしになった時、自分の思い出を語り始めた。

■上映作品
『風に立つ愛子さん』(2023年/75分)

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■作品解説
津波に遭っても、私は私自身でありたい。

2011年東日本大震災の時、石巻市の避難所で出会った
村上愛子さんと監督との8年間の記録。
当時69歳、明るいキャラクターで慕われた愛子さんだが、
やがて仮設住宅で一人暮らしとなった時、自身の思い出を語り始める。
高校に進学せず、結婚も選ばず、紆余曲折の人生を送った
彼女が残したメッセージとは?
北上川の風景をみながら綴っていく追憶のポエトリー。

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■スタッフ
監督・撮影:藤川佳三
出演:村上愛子
編集:大重裕二
実景撮影: 田中創
整音: 黄永昌
音楽:植田智道
ナレーション:片山享
製作:I N &O U T

■予告篇


■日時
2024年5月9日(木)
18時15分/開場 18時40分/開始
上映後、監督の藤川佳三さんを迎え、トーク&ディスカッション有。

■上映会場
東京ボランティア・市民活動センター(03-3235-1171)
東京・飯田橋セントラルプラザ10階
東京都新宿区神楽河岸1-1
JR中央線・地下鉄飯田橋駅下車 徒歩1分

■参加費
500円(介助者は無料/予約不要)

■問合せ:ビデオアクト上映プロジェクト
Eメール:jyouei@videoact.jp

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