2025年01月25日

【報告文】第126回ビデオアクト上映会〜巨大IT企業が支配する世界で〜

上映作品
『Amazon配達員 送料無料の裏で』 監督:土屋トカチ


たまにアマゾンで買い物をする。レジに進むと「プライムに登録すれば、月600円でお急ぎ便無料!」とかなんとか薦められる。無料で今日届く!?なんて便利なんだ!誘惑に負け、何度か登録したことがある。しかし、ちょっと待てよ…普通、便利で優れたサービスは他より高いはずだ。60年近く生きてきて学んだことは「良いものは高い」という致し方のない原則だ。けど、最近はどうやら違うらしい。――送料無料の裏で何が起こっているのか?そのことを徹底的な取材で教えてくれる土屋トカチ監督の『Amazon配達員 送料無料の裏で』の上映会が去る1月16日に行われた。

アマゾン配達員は、毎朝アマゾンのアプリで配達先や時間、ルートを指示される。AI導入で3倍に増えたという荷量は一日200個以上、稼働時間は約12時間。荷物は当然軽い物ばかりではない。2リットルのペットボトル9本(18kg)、17kgの鉄アレイ、30kgのマットレス…それらを車が侵入ができない細い道や階段を一人で歩いて運ぶ。トイレも昼食もままならない。――無理ゲーだ。アマゾン配達員はアマゾンAIがつくったゲームに参加させられるロボットのように、まるで人間扱いされていない。で、日当を運んだ荷物の数で割ってみると、1個あたり約70円。たった2gのハガキを一枚運んでもらうのだって85円かかるんだぞ!

さらに問題、というか信じられないのが、配達員はアマゾンアプリの指揮命令下にあって実態として雇用労働者と変わらないのに、個人事業主のフリーランスとされていること。個人事業主だから労働者としての法的保護がない。ガソリン代も車両保険費もケガした時の治療費も生活保障もない。さらには、配送センターのトイレも使わせてもらえないという例まである。アマゾン、ふざけるな!

というわけで2022年、横須賀と長崎で労働組合、アマゾン配達員組合が結成された。配達員はアマゾンに直接雇用されていない個人事業主にもかかわらずアマゾンアプリの指揮命令下にあるわけだから、アマゾンと下請け会社に対して適正な荷量や労働環境を求めるという至極真っ当な要求を行っている。しかし、AIのように非人間的なアマゾンジャパンは団体交渉に応じない。それどころか、有給休暇を取ったら契約を解除するとか、ストライキを決行した組合員とは新契約を結ばないとか、組合つぶしに躍起になっている。

以上のようなグローバル企業アマゾンのやり口は世界各地で行われている。同時に、それに対抗する運動も世界中に広がっている。国境を越え、「Make Amazon Pay/アマゾンに支払わせろ」キャンペーンが展開されているのだ。2024年5月、日本では配達員たちがアマゾンの下請け会社を相手に約1億円の残業代を求める裁判を開始した。闘いは、まだまだこれからだ。

上映後のトークでは、約30名の参加者たちと土屋トカチ監督との間で様々な質問、感想、意見が飛び交った。その中で印象的だったのは、「便利さ」についての各々の思いだった。「不便だっていいじゃないか。アマゾンに注文しないで、店で直接手に取って買い物をしよう」、「一日ヘトヘトになって働いた後、店に行く気力なんてない」、「アマゾン配達員だって、自分の買い物ではアマゾンを利用せざるを得ない」…アマゾンや他の巨大IT企業がつくったゲーム、システムは世界を覆おうとしている。仮にアマゾン配達員を辞めたとしても、新たな無理ゲーに参加させられるだけかもしれない。

トークの中でトカチさんが「Amazon Flex」というシステムについて触れていた。アマゾンは、いずれ配達をこのシステムで統一したいのではないかと。サイトを見てみたら「『働く』をあなたらしく、『届ける』をあたらしく」と白々しく喧伝していた。私はふと、あの韓国の人気ドラマ『イカゲーム』を思い出してしまった。このサイトはイカゲームの入口なのではないかと。しかし、イカゲームなら最後に一人残って勝つ可能性はあるが、巨大IT企業を相手に一人勝ちは不可能だ。勝つ方法は、みんなで勝つこと。あるいは、みんなでゲームを止めること。AIには、人と人との絆、連帯の強さは真似できない。
(土屋 豊)

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posted by VIDEO ACT! スタッフ at 21:03| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする