去る3月18日に第127回 VIDEO ACT! 上映会 を行いました。参加者は約20名でした。
上映した『小さな学校』は、2003年3月に廃校になった神奈川県津久井郡藤野町立篠原小学校の最後の1年間を記録した作品です。
冒頭、一人の女子児童が入学してくるところから始まります。全校児童6名、先生9名の、文字通り小さな学校です。投稿の様子、1・2年生の授業の様子、3・4年生の授業の様子、、、と、本作の内容をメモしながら見ていたのですが、ふと、こうした内容を書いても本作の魅力は伝わらないなぁ、と気付きました。その魅力というのは、「距離の近さ」だと思います。まず、児童が少ないことによって、先生と児童の距離が近い。そして、撮影している人と彼らの距離が近いのです。距離、というのは物理的な意味だけではなく、精神的な意味もあることは言うまでもありません。ですので、本作には児童と先生の生き生きとした表情が詰まっています。私は、子供たちの笑顔を見ながら、同時に先生たちにも笑顔が多いなぁと思いました。こうした小学校の様子をどう思うのかは、見る人それぞれで、本作は特別に理想化しているわけでもありません。

ある日の保護者会で、正式に篠原小学校が閉校することが告げられます。ピアノ演奏の校歌に合わせて、この小学校の長い歴史が紹介されます。本作で唯一、音楽がついたこの場面が、妙に感慨深かったです。
二学期になると、運動会の練習、特に一輪車の練習があり、学芸会の練習もあります。しかし、本作がユニークなのは運動会の本番も学芸会の本番も見せないのです。上映後のトークで、本作を編集した村上浩康さんは、「日常を綴ろうと思った」と言っていて、とても納得しました。

こうして3月には篠原小学校最後の修了式を迎えるわけですが、これまでに数多く繰り返されただろう修了式と特段変わることなく、一つの学校の歴史が閉じられました。

上映後のトークには、本作の製作・撮影の能勢広さんも登壇。とてもシンプルな作品の、なかなかに複雑な製作背景も聞くことができました。というのは、本作が撮影されたのは2002年。けど、製作年は2012年。諸般の事情があって、撮影後10年間、素材は編集されなかったのだそうです。また、撮影中に能勢さんは文化庁の研修でドイツに留学することになり、後半は篠原小学校の父母が撮影していたそうです。こうした事情は、親密な映像になり、作品で生きていると思います。能勢さんは、別の作品で一緒に仕事をしていた村上さんに編集を依頼。映像を見た村上さんは「奇跡の映像だ」と思ったそうです。

『小さな学校』という作品は、特別なことはない、小さな作品かもしれません。でも、見るととても面白い、珠玉の作品だと思います。
(本田孝義)