上映作品『ブライアンと仲間たちパーラメント・スクエアSW1』 監督:早川由美子

反戦活動家に寄り添って撮った記録
第45回になるビデオアクト上映会は、高田馬場の市民メディアセンターMediR(メディアール)で行なわれました。
上映作品は『ブライアンと仲間たち パーラメント・スクエアSW1』。この作品は、イギリスで反戦運動を続けているブライアン・ホウという人物と、彼とともに行動したり彼をサポートしている人達を、約1年半にわたって密着取材したドキュメンタリーです。
この作品は現在、全国各地で上映が行なわれています。各地で反戦・平和運動などに取り組んでいる人達にとって、この作品は刺激となっているようです。
最近では、反戦・平和運動関係とは別のところで上映される機会も増えているそうです。反戦・平和運動とはあまり接点がない人達がこの作品を観てどんな感想を持つのか興味深いところです。
制作者の早川由美子さんは、イギリスに留学した際に国会前でテントを貼って反戦を訴えているブライアンを見つけ、留学する少し前に買っていた家庭用の小型ビデオカメラで撮り始めます。
イギリスの国会前「パーラメントスクエア」は、日本の国会前と違って観光地でさまざまな人が訪れる場所にあるそうです。政府や警察の側からすれば、そんなところでイギリス政府がやっているところの批判をされるのはメンツに関わるのでしょう。あの手、この手を使ってプライアン達を追い出そうとしますが、さまざまなイヤガラセや暴力的な強制排除にもかかわらず、プライアン達はねばり強く自分たちの場所を守り続けます。この作品では、そうしたブライアン達と警察との攻防、そしてそこを訪れた世界中の人達の反応をつぶさに観ることができます。
早川さんは、撮ってはみたものの、自分のスタンスをしっかり決めて本格的な撮影を始めるまでには、4ヶ月ほどかかったそうです。覚悟を決めた早川さんは時には自分も数日間テントに泊まり込んだりしながら、プライアン達の行動を長期に渡って撮り続けました。この覚悟と熱意は凄いです。この作品に力を与えていると思います。
被写体に寄り添って一緒になって行動し、長い時間をかけて撮影したことで、この作品は反戦運動をするプライアン達への愛情にあふれたものになっています。

苦言も書いておきましょう。まず、作品時間が長すぎると思いました。作り手の側に被写体への愛情があり、自分で苦労して撮影した映像には愛着がありますから、なかなか短くするのは難しいと思います。世の中には時間の長い作品を評価する傾向の人もいますが、私にはこの作品は少し冗長だと感じられました。フェードアウトを多用した編集は独特のリズムが出ていて、落ち着いてじっくりと観られる作品にはなっていたと思います。
この作品を観る際に気をつけておきたいと思ったのは、日本でもさまざまなスタイルの反戦平和運動があるように、ブライアン達がイギリスの反戦平和運動の代表というわけではないだろうということです。私はイギリスの反戦平和運動について詳しくは知りませんし、ブライアン達はある意味で「象徴」的な存在として扱われている時はあるかもしれませんが、私がこの作品で観た印象では「行動が目立つし、その行動力は凄いけどちょっと変わったオッサン」でした。そのやり方には共感する人がいれば、クールに捉えている人、批判的な人もいるだろうなと思います。そういう意味では今回のビデオアクト上映会のサブタイトル「イギ
リスの反戦運動」というのはちょっと大雑把でした。
早川さんがブライアンに対して、家族のことや生活費はどうしているのかという質問をした際には、それまで雄弁に語っていたのに突然、質問を無視していなくなってしまったそうです。私はその質問と、質問を無視して立ち去るブライアンのシーンこそ、作品に入れてほしかったと思います。7年間、国会前でテント生活を続けているというのは、よほどの覚悟と信念がなければできないでしょう。しかし、その裏には7年間ほったらかしにしている家庭に、いまさら戻ることもできないというリアルな現実もあるわけです。
人は誰でも葛藤や矛盾を抱えながら生きています。そこにもうちょっとでも踏み込むことができたら、もっと凄い作品になったと思います。
私自身も映像制作者で、自分が創っている作品でそんなことができるかどうかはちょっとわかりませんが……。
それにしても、ブライアンという人は表現力も行動力もあり、そして面白い人物です。イギリスでもプライアン達を長期取材したテレビ番組やドキュメンタリーは無いそうです。その意味でもこの作品は貴重な記録です。
報告文:小林アツシ