『るんみの場合』〜若き在日、「韓流」そして自分史を語る〜監督:佐々木芳彦
『神の舞う島』監督:堀切さとみ


11月7日に第47回上映会を開催した。
今回の上映は市民が情報を受け取り、発信する能力を高めることを通じて、豊かな市民社会の実現を目指すことを理念とし、活動しているNPO法人市民メディアセンターMediR(メディアール)において開催された、3分間ビデオ講座・中級ビデオ講座の受講生が制作した2作品である。
VIDEO ACT!のスタッフにもMediRでの講座を持つものがおり、40名ほどの参加者の下、和やかな雰囲気で上映会が行われた。
1作品目の上映は「るんみの場合」〜若き在日、「韓流」そして自分史を語る〜
「冬のソナタ」から始まった「韓流ブーム」、今もなお多くの韓国のドラマが日本で見られ、「近くて遠い国」といわれた韓国は一見して「近くて近い国」とも思われる。
その「韓流ブーム」は日本社会に何をもたらしたのかを問うことが、映像製作をはじめるにあたってのきっかけとなっている。
物語は日本有数のコリアンタウンである新宿区大久保の街並みから始まり、その映像の間に「韓流」ブームについてどのように感じるか、というインタビューが挿入されてゆく。
そのインタビューをする過程で出会った若い女性の在日3世である、りん・るんみさんの「韓流ブーム」に対する関心のなさが製作者に衝撃を与え(「韓流ブーム」は在日の人たちにとっても、好意的に受け止められるものだと考えていた)、るんみさんが自分史と在日としての思いを語ってゆく。
在日として持ち続けていた民族感情と祖国への思い、実際に訪れた現在の韓国に対して感じた違和感、日本では卒業資格が認められない朝鮮学校から、日本の学校に進学する障壁、拉致問題に在日コリアンがかかわったという報道で、精神的に不安定になったときの学校にも通えない状況、悪い印象を持っていた日本人、その日本人の学友との友情により精神的不安から立ち直る様が語られてゆく。
そして外国人が多く通う大学に進みグローバルな視点に触れ、祖国を離れて生きる華僑の人との出会いのなかで、在日である自分を相対化し、国籍や民族にとらわれない考えを持つようになる。
韓国との交流を促進していると思わせる「韓流」ブームが、るんみさんをはじめとした在日の方々から祖国を遠くしているのだとしたら、皮肉なことだと思うとともに祖国、民族に無自覚でいられる自分を自覚する思いだった。
2作品目の上映は「神の舞う島」
瀬戸内海に面する、山口県熊毛郡上関町大字長島に作られようとする原子力発電所(現在では既に工事が始まっている)
周辺の集落が既に海を売っている中、建設予定地の対岸にある祝島の住民はその9割が反対している。
後の製作者トークでも語られるのだが、原発の建設には地元での反対運動が大きく行われるケースは少ないそうだ。
その中でなぜ祝島の住民はそのほとんどが原発の建設に反対しているのか、地元住民の人々に問う作品になっている。
映像は島に多く住むという猫の歩く姿とエメラルドグリーンに輝く美しい海、そこにすむ希少生物を紹介するナレーションから始まる。
家を囲む石垣のように見える練塀、きれいに並ぶ緑の棚田、神舞(かんまい)と呼ばれる伝統の神事、祝島独特の美しい景色やのどかな雰囲気と、祝島住民の原発とその反対運動に対する思いが映し出される。
犬が鉢巻を巻き、シュプレヒコールをあげる島の住民とともに歩く姿はほほえましいものだったが、神舞で神船を囲む大漁旗で飾った漁船が原発建設予定地を取り囲む様は、それまでの美しく、のどかな祝島の雰囲気と対比され、原発によって変化を余儀なくされる島の様子が想起されるものだった。
印象に残ったのは帰郷して反対運動に参加している若い男性の言葉「原発の反対運動というと政治的行動という印象が強く敬遠していたのだが、実際に運動に身をおくようになり、都会には都会の生活、田舎には田舎の生活があり、それを守って行きたい」という思いになったそうだ。反対運動を行う祝島の人々が自分たちの生活、それを支えてきた場所を絶やしたくないという純粋な思いが伝わってくる場面だった。
上映後の製作者のトークでは、講座受講生の卒業制作として作成した作品だからか、初めての公の場での公開だからなのか、
鑑賞者に伝わるものになっていたか不安という言葉もあったが、それに対し鑑賞者の中に製作者に対し、勇気付ける言葉と今後への期待を話していただいた方もいて、
製作者両名の今後の更なるご活躍と、今回の作品がさらに多くの人に見てもらえればと思う上映会となった。