「静かなる闘い シュティカ−冬の魂」 監督:床田和隆

2010年2月3日、第48回ビデオアクト上映会〜バンクーバー五輪と先住民の地〜を開催した。上映作品は床田和隆監督の「静かなる闘い シュティカ−冬の魂」だった。2月12日から開催中のバンクーバー冬季オリンピック。大手メディアでは「先住民は主体的に五輪に参加している」と報道されている。しかし、華やかなオリンピックの影で、翻弄されるカナダ先住民の土地や居住権などの問題について本当のところはどうなっているのか。参加者の皆さんに考えてもらえるような上映会になればと思い、この上映会を急遽企画した。参加者は約20名だった。
上映作品「静かなる闘い シュティカ−冬の魂」の舞台は、バンクーバー五輪の会場であるウィスラーから北へ50キロの山岳地帯「シュティカ」。シュティカとは、先住民の言葉で冬の魂という意味。きれいな水が湧き、山菜などの食料も採れる。また狩猟や修行の場所でもある。先住民にとって神聖な場所だ。ところが、2010年冬季五輪の会場がウィスラーに決定して以来、この地域周辺はリゾート開発に揺れはじめる。映像は、この森を守ると決心し、山小屋を建て犬と暮らす男性、ヒュービューさんに密着。彼の暮らしと想いが中心に収録されている。また、シュティカを想い、ヒュービューさんの活動を支援する人々のインタビューも収録されている。圧巻なのは、ヒュービューさんの日常生活だ。標高1000メートルの山奥での暮らし。雪が深く積もる中、ポリタンクで近くの泉まで水を汲みにいく。森を活かすために木を間引き、切り倒した木をロープで運ぶ。そんな彼のまわりを、大きくてかわいらしい犬がクンクンと走ってついて回る。そんな様子を見ているだけで、心があたたかくなる。普段は無口だというヒュービューさんが、床田監督の前では親しげに話す。干した鮭や山菜などの森で採れた食料を紹介する際、「店なんかいらない。(・・・少しの間をおいて)でも、店がないと生きていけないんだけどね」と話す表情は、とても豊かで切ない。時々挿入されるスキー場の映像とは対象的で、印象に残った。
監督の床田さんが北海道在住ということもあり、上映後のトーク&ディスカッションでは、現地へ行ったご経験のある、東京在住の小林純子さんを迎えて行った。2004年と2007年に現地を訪れた小林さん。04年の訪問時には、どこまでも森が続く印象だったウィスラー。07年には、山が削られ赤土が露呈されていたことに大変驚き、心が痛んだそうだ。また、五輪において「先住民が参加しています」と派手に宣伝されているが、彼らがどこまで、それを望んでいるのかは疑問が残るという。先住民の中の多数派が、「オリンピック協力している」と大きく紹介されれば、反対の声は挙げ辛くなる。「オリンピックと民族の調和だなんて、ヒットラーの時代と何ら変わりがない」と切り込む小林さんの発言に、オリンピック競技にほとんど関心のなかった私も深く考えさせられた。
バンクーバー冬季オリンピックの開会式で、聖火に点火した一人・女子スキー競技の元金メダリストは、シュティカを指し「この場所を発見したのは私よ」と公言したそうだ。彼女の現在の職業は、リゾート開発業とのこと。21世紀になっても、コロンブス的発言を臆面もなく続けることができるセンスは、なんとも気持ちが悪い。日本勢のメダルの数ばかり気にするのではなく、現地で何が起こっているのか。考えるきっかけを提案できた上映会になったのではと思う。
報告文 土屋トカチ
なお、「静かなる闘い シュティカ−冬の魂」は、ビデオアクトウェブショップでもご購入いただけます。
参照ウェブページ:ヤポネシアビデオ