「レールは警告する」と「国労バッジははずせない! 辻井義春の闘い」の2本を取上げた。

最初に「レールは警告する」。分割民営化による同業他社との競争から安全を無視するJR。
「コトが起きないと動かない体制」と「儲け主義」に原因がある、と指摘すれば
「労働者はいらない、社員がいればいい!」と投げ返される職場環境。
解雇や減給を逃れるには黙っているしかないのか・・・。
一方、「労働者の誇りを捨てたくない!」と、たった一人闘ってきたのが、
続いて上映した「国労バッジははずせない! 辻井義春の闘い」の主人公・辻井義春さんだ。
辻井さんは、分割民営化で、2人の仲間が不当な理由で不採用になったのをきっかけに
会社と闘いつづけてきた。
労働者の証であり、主張である国鉄労働組合(国労)のバッジ。
会社は、その小さなバッジ着用を、「服装の乱れ」による就労規則違反とし、度重なる出勤停止を発令。
発令日数を日割り計算し、最大で101,026円の40%減給を行った。ボーナスも15%のカット支給。
この状況を21年続け、カットしてきた賃金は1000万円を越す。
「わたしは、会社を、絶対に、ゆるさない!」と唇を震わせながら訴える、妻の辻井まゆみさんの声も、
耳に残って離れない。
東京・飯田橋ボランティアセンターに訪れた約30名の中には鉄道関係者も含まれ、
質疑応答では活発に意見交換がされた。その中には、質問を真摯に受ける辻井さんの姿もあった。

8月5日、突然、辻井さんの訃報が入った。深夜、交通事故に遭ったのだそうだ。
打ち上げの居酒屋で、近況について伺い、まゆみさんの話で時折笑顔を見せながら、
鰯の塩焼きや野菜の炒め物に箸をつけていたのは、つい先日のことである・・。
辻井さんが公の場でアピールしたのは、この上映会が最後になってしまった。

上映会・質疑応答より
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<レールは警告する>
◇自分は36歳で、いま私鉄で運転士をしています。今日は職場の人達と観に来ましたが、
私鉄も同じです。
営利主義から安全を無視した会社に対し、言いたいことを言わず、会社の言いなりになってしまう日本人。
これが延長していくと「徴兵」や「戦争」につながっていくのではないかという危惧があります。
今日、映像を観て、自分ができることをやり、人間らしく生きられる世の中にしたい、と考えました。
(鉄道運転士)
◇国鉄問題には関心が少なく、メディアの露出もあまりないので、今日は集まってもらってよかったです。
二つの作品に共通しているのは「労働者がモノを言う」ということで、現役の人に伺うと、今の状況はもっと悪くなっていると。
先ほどの意見は正しくて、支配者が暴走すれば戦争になりかねない。今日、あらためてそう思いました。
(「レールは警告する」制作者)
<国労バッジははずせない! 辻井義春の闘い>
◇判決が出ているのに、裁判所が会社側に賃金支払いを強制執行しないのはどうしてなのか、
家賃滞納や税金未払いなどには力を行使するのに、こういうときばかり放置するのは何故でしょう。(女性)
◇実は国鉄の赤字はつくられた。新幹線を作るとき、国鉄なのだから国の税金でやればいいのに、
わざわざ民間から借りてわざと借金を作った。それが事実だ。
民主主義は多数決ではなく少数意見をいかに大事にするかだと思うが、
辻井はまさに「少数意見」として、とてもがんばっている。(佐久間忠夫さん)
◇インターネットで辻井さんの存在を知り、すごいと思っていましたが、2008年3月、初めてお会いできたのです。
一体どんなスーパーマンかと思えば、バッジをつけ続ける事を迷っていた時もあったし、お酒にとても強く(笑)、
仲間の話をしっかり聞いた上で絶対あきらめない人だった。
私は以前教員をしていましたが、こういう人が職場にいたら、教員をやめなかったでしょう。
(「国労バッジははずせない〜」制作者)
◇いつもなら、ここにカラオケ好きのまゆみちゃんがいるのですが、今日は疲れてお休みです。
私より過激な彼女は、勉強が進んで体で問題を理解しているので話に迫力があるんです。
最近じゃあどこへ行っても、彼女の話をしてくれ、と言われる。今後「辻井まゆみの夫です」と
自己紹介しなければいけなくなるかも(笑)。
無事2月に定年退職し、退職金も出ました。今は駅の清掃をしています。
働ける、ということがありがたく、もう楽しくて楽しくて、と言わなければやっていけないほどつらい仕事ですが、
最高裁で闘うためにも今の職場で応援してもらえるようにがんばって、
退職金を投げ打ってでも誇りをかけて闘います。
・・まだまだがんばりますので、応援宜しくお願いします。(辻井義春)
分割民営化で失われたのは労働の本分、そして労働者の発言なのだろうか。
そしてまたひとり、誇れる労働者が逝ってしまった。
上映会に参加してくださった皆さん、辻井さん、本当にありがとうございました。
辻井さんのご冥福をスタッフ一同、心よりお祈り申し上げます。
報告文 白銀由布子