2010年12月07日

第52回 VIDEO ACT! 上映会 〜若者の「リアリティ」〜 報告文

11月30日、第52回ビデオアクト上映会。〜若者の「リアリティ」〜をテーマに、
飯田橋ボランティアセンターで、「卒業」(太田信吾監督/2009年・58分)を上映した。
会場には太田監督と同世代の若者多数を含む約30名が集まった。

この作品は「ヨコハマ国際映像祭2009」で入選しており、一次予選で
ビデオアクト代表の土屋豊が審査員をしていた時に出合った、フィクション映画である。
だから、映画に出てくる青年(=太田監督本人)は、留年したのは事実だが
本当はいわゆるひきこもりではない。

脚本を作るのではなく、撮りながら発展していく、というやり方で、
先の見えない感じをより得られるよう意図的に演出した。

とは言え、これを「ひきこもり」という観点で見てしまうと、
そのリアリティは感じられない。ひきこもりらしさをイメージしただけであるから。
しかし「就職や自分のこれからに悩む若者の話」と捉えれば、
誰にでも思い当たる感情がリアルによみがえってくる。

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ドキュメンタリーはある事実を監督の視点で伝えるため、やはりそこに作為はあるものだが、
太田監督の「どう撮ったら面白いか」という意識はこの作品においては、
「なんでもない空間をいかに面白く味付けするか」という演劇的発想のようにも思えた。
聞けば、劇団に所属する職業俳優でもあるのだそうだ。
監督自身を等身大に表現した作品であり、そういう意味でもドキュメンタリー要素も強い。

たとえば、母親に今後の進路について怒られ泣くシーンは、
今、母親が怒りそうだと感じた時、母親を待たせ、カメラを仕込んでから
「悩んで泣いている自分」を演出して部屋に招き入れた。

偶然の状況に味付けはしたが撮り直しはしないので、この場面の映像は弟さんが撮る。
母親は本当に怒っているから冷静な理屈でどんどん主人公を責める。
責められるほど主人公の感情も乗せられてリアルになっていく。

この母親の怒りに心当たりのあるものは少なくないから、観ているこちらは、
ホームビデオのような映像にどこまでが真実で何がフィクションなのかわからなくなる。

会場からもさまざまな感想や質問が飛び交ったが、太田監督は
「どう撮ったら面白いか」を常に考えながら、計算どおりに行かない現実をつないでいくのだと、
何度も繰り返した。

また、人柄を感じさせるひょうひょうとした受け答えにも、会場は和やかに沸いた。

さらに、現在制作中の新作「錠剤はいらない」(仮題)の予告編を3分上映。
うつ病のミュージシャンと一緒に旅する青春ドキュメンタリーだが、
常にどうしたら面白くなるのかを模索する監督と、
ドキュメンタリーといえば「情熱大陸」のようなイメージしかなく、
出演料を要求し始めた取材対象者。今後どうなっていくのか、こちらも完成が楽しみだ。

今は自分のやりたいことと状況が合致しているため、
与えられた仕事をこなしながら、これかな、と思うテーマをじっくり撮りたい、
という太田信吾監督、土屋豊の影響を受けた若い監督の将来性を感じた上映会だった。  

報告・白銀由布子
posted by VIDEO ACT! スタッフ at 16:22| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする