2011年06月11日
第55回 VIDEO ACT! 上映会 〜「さようならUR」完成記念試写会 〜 報告文
たとえばそろそろ腰を落ち着けようと公団に入り、
これが終の棲家と安心していたところ、
部屋から突然出て行かなければいけないとしたらどうするか。
早川由美子監督の新作「さようならUR」は、そうした問題を描いた作品。
5月26日、今回のビデオアクト上映会は、この作品の完成披露試写会を兼ねたせいか、
映画に登場した顔もちらほら入り混じりながら約40名が参加。関心の高さが伺えた。
長びく不況に下がる賃金。
痛いのは交通費か住宅費かという日常で、やっと入った公団が取り壊し。
建て直すならいいだろう、きれいになるのだからと言われるが、
きれいになったら家賃が上がる。
老後を安心してすごそうと入ったはずの公団で。
そして今は、
若くても同じ状況に陥ったら出て行かざるを得ないひとがたくさんいる。
そういう現状を見るにつけ、
「家賃のかからない世の中になればいい」という
監督の発想からスタートしたこの作品は、
UR(都市公団・地域公団)機構が老朽化を理由に
建て直しを決めた日野市高幡台団地についての問題を扱う。
お年寄りが多いという理由からか
団地の中の73号棟だけが無視された形で建て直しが決まるなど中の不協和音もあるが、
UR側が提示する計画書は塗りつぶされており、
感じよくねばりづよい新しい住居への勧誘は、矛盾であり滑稽である。
早川監督はつぶさにそれを表現しようと試みる。
演歌を流し、時代劇が始まるかのようにURのアメの部分を
ユーモアたっぷりに紹介したかと思えば、
理不尽さには突撃インタビューで切り込んでみせる場面は
この作品の見せ場である。
惜しむらくは、73号棟の生活臭をもっと匂わせて欲しかったことと、
映像や本人の雰囲気は柔らかいのに物語っていくときの展開や言葉が硬派で、
そこに少し違和感を感じることか。
会場では映画や取材方法への質問に、
自らを固定したビデオカメラで記録しながら丁寧に答える監督や、
撮ってもらえたことがうれしいと話す対象者とのやりとりが見受けられた。
そこにこれからも成長しつづけるであろう今作の魅力があるように思った。
早川監督も言うように、観るひとのことを考えて作ることや、
映像で表現しようと試みることはドキュメンタリーにおいても
これからますます必要になるように思う。
報告 白銀由布子