2012年03月07日

第58回 VIDEO ACT! 上映会 〜性的マイノリティの現状〜 報告文

 3月6日の第58回VIDEO ACT!の上映会では『しみじみと歩いてる』(2010年/島田暁
監督)を上映した。参加者は約25名。上映後には監督の島田さんを交えたディスカッショ
ンを行った。
 本作の監督・島田暁さんはゲイであることをカミングアウトし、ブログやツイッターで
も日々思ったことを綴っている。映画は2006年の関西レインボーパレードで出会ったレズ
ビアン、ゲイ、トランスジェンダーの人々を描いていく。特に後半は、トランスジェンダ
ーの黒田綾さんの悩み、葛藤が中心となる。
 ひとくくりに「性的マイノリティー」と言っても、映画に出てくる人たちが経験してき
たことは様々だ。だから、ジェンダーについて普段あまり考えたことがない人にとっては、
少々分かりにくい映画かもしれない。監督の島田さんは上映後のトークの中で、ラベリン
グを最小限にしたかったので、あえて観客に混乱を招く編集をした、と語っていた。その
成否については、本人も上映会を重ねながら確かめている様子だった。確かに、この映画
に「解説」を期待すると期待は裏切られるであろう。会場からもそうした声があった。だ
が同時に当事者たちの声に耳を傾けていく中で、見ているこちらも、ジェンダーについて
色々な事を考えるようになってくるはずだ。
 映画の中で、黒田綾さんはお兄さんに会う。(直接会っているシーンはない。)女性にな
ろうとしている綾さんを兄は全く理解できず、怒りにも似た感情があることが分かる。し
かし、もう一度兄に向かい合うことで、その兄が「分からない」ことが綾さんにはよく分
かり、そのことがよかった、と語る。この時の安堵の表情が印象的だ。
 分からないことを分かったようにして語ることは簡単かもしれない。けれども、分から
なくても向き合うことの方がもっと大切なことかもしれない。
 島田さんがトークで語っていたところによると、性的マイノリティーの当事者とそうで
はない人では感想が違うそうだ。当事者の方は映画で語られる社会の構造の部分に反応す
ることが多いらしい。私は当事者ではないのだが、上映後の打ち上げで島田さんが「ジェ
ンダーにもグラデーションがあるんです」と語っていたことがとても印象に残っている。
異性愛者と思っている人の中にも揺らぎはあるし、社会的に強制される「男性性」「女性性」
に窮屈さを感じている人もいる。本作はそういうグラデーションに気付くきっかけにもな
るだろう。
 映画のラスト近く、再びレインボーパレードを歩く黒田綾さんが「しみじみと歩いてる」
と呟く。その「しみじみ」に込められた思いが忘れがたい余韻を残す映画だった。

報告:本田孝義
posted by VIDEO ACT! スタッフ at 15:52| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする