2014年3月27日、第68回目の上映会はテーマを「脱原発!デモ割」「原発輸出」とし、『"デモ割"うまれたよ』『忍び寄る原発―福島の苦悩をベトナムに輸出するのか―』の2作品を上映した。参加者はスタッフも含め約30名だった。
『"デモ割"うまれたよ』は、NPO法人OurPlanet‐TV(以下、アワプラ)が2012年に開催したビデオ講座から生まれた作品だ。"デモ割"とは、デモ参加者と地域の飲食店をつなぐしくみで、「デモに行ったよ!」と申告すれば、脱原発デモ賛同店が割引をしてくれるサービス。"デモ割"は東京杉並区の脱原発デモからはじまり、現在は地方へも自然派生しているという。制作者のふくしまゆみこさんは、お母さん兼勤め人。3.11の事故以降は、脱原発杉並のスタッフとして、脱原発デモを企画してきた。大手メディアがデモに関する報道をキチンと紹介してくれないことに憤り、"デモ割"を自分自身で紹介したいと思い、映像で記録し伝えたいと考え、アワプラが主催するビデオ講座に参加し、本作を作り上げた。これまで、ビデオカメラでの撮影も編集も未経験。今作が初作だという。
"デモ割"協力店の店主や利用者、企画者や新聞記者のインタビューを軸としたシンプルな作りだが、インタビューはテンポよく編集されており、楽しく運動を続けている雰囲気が伝わる作品だった。
『忍び寄る原発―福島の苦悩をベトナムに輸出するのか―』は、中井信介さんの作品だ。中井さんの作品は、ビデオアクト上映会でも過去2度上映させていただいたことがある。3.11の事故後は、恐怖心から、すぐに四国へ避難していた中井さん。「ドキュメンタリー映像作家として情けない」と、自身のことを責めたこともあったそうだが、制作元の国際環境NGO FoE Japan(以下、FoE Japan)から、「原発をベトナムへ輸出している状況をビデオにしてくれないか」と依頼を受け、迷わず引き受けたそうだ。
世界規模の事故を起こしておきながら、他国へ原発を輸出する日本国政府の根拠が、正直なところ、私にはよく判らなかった。作品中の解説によると、カーボン・オフセットという指針にあるという。カーボン・オフセットとは、人間の経済活動や生活などを通して排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業によって直接的・間接的に吸収しようとする考え方や活動のこと。「原発で二酸化炭素を抑える」だなんて何をいまさら言っているのだろうかと思うが、日本国政府は本気みたいだから恐ろしい。
ベトナムの原発立地予定区で行われたインタビューには「原発は怖い」「いやだ」という声がある一方、「国が決めたことだから仕方ない」「日本製の電化製品や車は素晴らしい。だから安全だと聞いている」など、ベトナム市民のさまざまな本音が語られる様子がとてもいい。映像を観ていて、ふと思った。これは、3.11の事故が起こる前の日本国内の市民の姿、そのままなのではないかと。
日本国内の市民の多くは、原発はコリゴリだと感じている。今でも原発に関するデモや集会は粘り強く、あちこちで続いている。けれども日本政府は国内の原発再稼働に躍起になっているし、他国へ原発を輸出したくてたまらない。この期に及んでもなおカネ儲けに走る、心を侵された人々の愚行に気が滅入る。だが、絶望していてはもったいない。『忍び寄る原発』は、ベトナム語字幕版DVDも制作されたという。本作には福島の様子も取材されているので、ベトナムの地で正確な情報が広がっていくことに希望を感じる。
上映後のトーク&ディスカッション。本作の監修をおこなったFoE Japanスタッフの満田夏花さんは「ベトナムでは、原発に関する正確な情報が届いていない。議論もされていない」と話した。情報と議論。運動を続けるために大切なものとは何かを、改めて思い起こさせてくれる上映会だった。
報告文:土屋トカチ
『忍び寄る原発―福島の苦悩をベトナムに輸出するのか―』のDVDは、以下で発売中です。
FoE Japanのサイト ドキュメンタリー「忍び寄る原発―福島の苦悩をベトナムに輸出するのか―」