【上映作品】
『山陽西小学校ロック教室』(監督:本田孝義/2013年/42分)
去る5月29日に行われたビデオアクト上映会は、通算69回目。上映作品は、69(ロック)な日にふさわしい『山陽西小学校ロック教室』(監督:本田孝義)でした。参加者は約30名。いつもの上映会ではあまり見かけない初参加の方々が多かったようで、本田孝義監督や出演者の森内ベースさん(パンパンの塔)のファンの皆さんの姿もちらほら見受けられました。
『山陽西小学校ロック教室』は、2013年に開催された岡山県の大規模なアートイベント「廻遊―海から山から―」内の企画、アーティスト・イン・レジデンスから生まれた作品とのこと。アーティスト・イン・レジデンスとは、作家がその土地に滞在しながら作品を制作するという企画で、本作品はそういう制作方法ならではの丁寧な継続取材が活かされ、登場人物たちの変化が生き生きと描かれていました。
2013年9月、本田監督の母校、山陽西小学校でロック教室が開講します。講師は本田監督と同じく同校の卒業生でミュージシャンの森内ベースさん(パンパンの塔)。受講生は4、5、6年生から30名の児童が集まりました。これから約二ヶ月の期間で楽器演奏の技術を習得し、なおかつ作詞、作曲を児童自らが行ってオリジナルの楽曲を作り、それを全校児童の前で発表するという全くもって無謀でロックな試みが始まります。
カメラはその無謀な試みの様子を淡々と見つめ、映画の観客もハラハラしながらその場の情景を見つめます。そして、児童たちの微妙な変化を本田監督の視線を通して感じとって行くことになります。それだけの映画です。それだけの映画ですが、その淡々とした視線の向こう側にあるもの、子どもたちの生き生きとした表情の向こう側にある家族や同級生との関係、学校というシステム、岡山という土地について、観客は無意識の内に想像を膨らませることになります。前作、『モバイルハウスのつくりかた』でも見られた本田監督の作戦にまんまと乗せられることになるわけです。
上映後のトーク、ディスカッションでは、いろんな想像を膨らませた観客からの質問が数多く飛び交いました。その質問に答えるカタチで本田監督から作品の背景が語られたわけですが、それを聞くことによって更にもう一回観たくなるという仕掛けを本田監督自身が戦略的に意識していたのかどうかはわかりません。わからないけど、結果としてそうなったように私には思えました。
集まった児童30名の内、10人は優等生、10人は不良、10人は授業についていくのがなかなか難しい子どもたちだったという話。ある教育関係者がこのロック教室を見学に来て、「これぞ、教育だ」と語った話。学区内の地域における微妙な関係性の話…などなど、いろんな背景が子どもたちの瞳の向こう側にあったわけですが、それを作品内で語るべきか否か?については、誰も正解は出せないでしょう。ただ、そういう正解が出ない事柄をあ〜だ、こ〜だと語り合えるビデオアクト上映会という場は、とても貴重なのではないかと思いました。
(土屋 豊)
【追加情報】
『山陽西小学校ロック教室』は、今後、下記日程で上映されます。
会場は、東京・世田谷ものづくり学校。
7月26日(土) 14:00-15:15
8月22日(金) 19:30-20:45
8月23日(土) 14:00-15:15
9月26日(金) 19:30-20:45
9月27日(土) 14:00-15:15
詳細は、下記ページをご参照下さい。
http://setagaya-school.net/Event/9937/