2014年12月03日、第72回 VIDEO ACT! 上映会 〜「ホームレス」とは誰か〜を開催した。参加者は約40名。
まず、『「ホームレス」と出会う子どもたち』(2009年/撮影・構成・編集:神吉良輔)から上映スタート。本作は大阪・釜ヶ崎にあるこどもの里が行う「子ども夜まわり」の活動の様子を描くところから始まる。最初、ホームレスの人たちは怖い人たちと思っていた子供たちも、率直にホームレスの人たちに話しかけてみることで、なぜ、ホームレスになったのか、どういう生活をしているのかを徐々に知るようになっていく。本作は途中から、子供たちの活動を少し離れ、ホームレスの人たちの実際の様子を描く。この構成がとてもよく考えられているなと思った。なぜ、子供たちが夜回りをするようになったかというと、若い人たちによるホームレス襲撃事件が数多く発生したことから、まずは実際にホームレスの人たちに接することによって、子供たちの差別や偏見をなくして欲しい、というところからだそうだ。子供たちの感想を聞くと、確かに当初あった偏見が薄らいだことが感じられるが、この夜まわりをしていた子供たちの中にも、その後、ホームレス虐待に加わった子供たちもいるそうで、なかなかそう簡単には差別や偏見が無くならない難しさもあるようだ。本作は教材として製作されたとのことで、上映後のトークでは本作のプロデューサーである飯田基晴さんが経緯を話された。確かに教材としてよくまとまっており、学校での活用も広がってきたとのこと。
次に『ホームレスごっこ』(2014年/監督・編集:早川由美子)を上映。本作はdislocateというアートプロジェクトの一環で製作された、という。タイトルだけ見ると、どういうことか分からないかもしれないが、早川さん自身がダンボールを集め、路上にダンボールハウスを作ったりする様子が映し出されつつ、音声には実際に路上生活をしている人たちのインタビューが流れてくる。あくまでも「ごっこ」である姿と「現実の」路上生活。その少しずれた位相から見る人たちの想像力が喚起されてくるような作品と言えるだろう。早川さんはホームレスそのものというよりも、公共の場がなくなりつつあるという懸念から本作を製作した、と語っていた。そのこともあって、インタビューにはストリートミュージシャンの音声も入っている。目的もなく、ただ人が居ることができなくなりつつある社会、という早川さんの指摘には頷けることが多かった。ただ、作品として少し残念なのはラストシーンが路上の光景ではなく、某量販店、それも女性関係のグッズが映し出されぞれまでの流れとの関係がよく分からず、焦点がぼやけてしまった印象を受けた。
最後に、『VJU REPORT Vol.7 ジェントリフィケーション 虚飾の影の野宿者排除』(2014年/取材・構成:遠藤大輔)を上映。昨年年末、渋谷で起きた野宿者排除をVJU(ビデオ・ジャーナリスト・ユニオン)は現場からUSTREAM中継を行い、大きな反響を巻き起こした。本作はその時の映像に加えて、なぜ野宿者排除が起きるのか、その背景を含めて1本の作品にまとめたものだ。タイトルにある、ジェントリフィケーションとは、都市の再開発に絡んだ環境美化のことを言う。渋谷では2012年に渋谷ヒカリエが開業したり、宮下公園が企業に売られたり、近年、都市の再開発が急速に進んでいる。その中で、野宿者の人たちは、夜に寝ていた場所を追い出されて、行くあてもない状態に放り出される状況が起きている。こうした経緯に中で起きたのが、昨年末の野宿者排除だった。年末年始は区役所も休みとなることから、野宿者の人たちに対する福祉もストップしてしまう。そうでなくても、常に命の危険に晒されている人達にとってはますます危険な季節とも言えよう。だからこそ、野宿者支援の団体は炊き出しで食事の提供を毎年行ってきた。昨年末、宮下公園で炊き出しの準備をしていたところ、渋谷区は公園の閉鎖を通告し、野宿者・支援者を公園から叩き出した。警察が動員されたことから、現場では怒号が飛び交う。野宿者は命の危険に晒されるため、文字通り命をかけた抗議だ。しかし、渋谷区役所の公園を管轄する部署の人たちは、福祉との連携を全くとっていないことが口ごもる様子からよく分かる。本作を製作した遠藤大輔さんは20年近く野宿者の置かれた問題を様々な形で描いてきた。その遠藤さんは、なぜ、野宿者を差別する感情が芽生えるのかを考察した本を執筆中だそうだ。話の中で、興味深かったのは、野宿者の人たちに対するイメージは、野宿者に出会った人たちが元々持っている様々なネガティブなイメージを野宿者に投影している、という指摘だった。遠藤さんが執筆中の本には心理学的な要素も盛り込んだものになるそうで、刊行を待ちたいと思う。