第77回 VIDEO ACT! 上映会〜裁判所vsオヤジ〜 報告文
本田孝義
1月28日、“裁判所VSオヤジ”と題して『裁判所前の男』(2015年/65分/監督:松原明 制作:ビデオプレス)を上映した。参加者は約30名。
まず、私事から始めることをご容赦いただきたい。私は1993年頃から2006年頃まで、よく、裁判の傍聴に行っていた。ある時から、東京地裁前の路上で何やら拡声器で訴えている人をよく見かけるようになった。それが本作の主人公・大高正二さんだった。大高さんは「裁判官は証拠資料をちゃんと読め」「裁判官の数を増やせ」「撮影・録音の自由を」など、ごくまっとうな訴えをされていた。本作の冒頭はこうした大高さんの姿を映している。時期は私が裁判所に行かなくなった2007年の様子だ。
不覚にも、それから大高さんに大変なことが起きた、というのは知らなかった。2008年11月、裁判所に録音機を持って入ろうとしたところ、職員に取り囲まれ、職員が勝手に尻餅をついて公務執行妨害で逮捕。(23日間の拘留)。2010年8月10日、ある裁判を傍聴した大高さんは、裁判終了後、警備員に取り囲まれ「所持を禁止した携帯電話を持っていた」として裁判所外に強制退去。この事件で、本作製作者の松原明さんは当事者になってしまった。というのも、大高さんは目をつけられていたこともあり、裁判所に入る前に松原さんに携帯電話を預け、裁判所内で受け取っていたからだ。そして奇妙なことにここで事件は終わらなかった。約3ヶ月後の11月2日、大高さんは公務執行妨害・傷害容疑で逮捕されてしまう。8月10日、裁判所南門から強制退去させられた時に、守衛の頭を門扉越しに殴った、とされたのだ。そんなことが不可能なことは、弁護士が再現して明らかにしている映像が本作中にも出てくる。大高さんは、8月10日の強制退去の際、怪我をしたことから、その後、丸の内署の前で裁判所の暴力を捜査するように訴えていたことから丸の内署が裁判所に被害届けを出させて、11月2日の逮捕になったらしい。
こうして事件の概要を書くと、大高さんはいかにも反権力の闘士のように思われるかもしれないが、本人は飄々としている。そのギャップがなんとも可笑しい。上映会後の打ち上げでは、もっと大高さんの面白みを膨らませた編集にしてはどうか、という声があったほどだ。
2011年5月11日から大高さんの裁判が始まるが、その法廷も異様だった。傍聴者より廷吏が多いような厳重に管理された東京地裁429号警備法廷。法廷で少し文句を言っただけで大高さんも強制退去。
一体、裁判所は何を恐れているのだろう。本作で浮かび上がってくるのは、裁判所が裁判所の実態を外部の人に知られることを極端に嫌っている、ということだ。裁判は誰でも傍聴ができ、市民に開かれていることが建前だ。市民参加を名目に始まったのが裁判員裁判のはずだった。しかしながら、裁判所内では相変わらず撮影・録音は禁止。オウム裁判が始まった時に導入された金属探知機も、オウム裁判集結後も撤去されていない。朴訥とした大高さんの訴えを聞いていると、裁判所はちゃんと市民と対等に向き合って欲しい、という真っ当なものだということが分かる。
大高さんが訴えられた裁判も、最高裁まで上告したが棄却されてしまった。
上映後、製作者の松原明さん、主人公の大高正二さんを交えて、トークとディスカッションが行われた。映画では十分触れられなかった事件の詳細も補足された。大高さんは最後に、裁判所をどう思ったかを素直に表現して欲しい、と語られたのが印象的だった。国は司法・行政・立法で成り立つが、一般の人に一番馴染みがないのが司法かもしれない。そして一番閉鎖的なのも司法だろう。間違っていると思うことを間違っていると言い続ける大高正二さんの姿を捉えた本作は、そうした閉鎖的な司法に小さな穴を開けることに繋がるに違いない。