2016年09月30日

第81回ビデオアクト上映会 〜学生が見つめた地域医療と公害〜 報告文

今回のビデオアクト上映会は、大学のゼミでつくられた2本の作品を上映した。

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『埋もれた時限爆弾〜さいたまアスベスト被害〜』
2016年/36分/制作:武蔵大学社会学部2年 永田浩三ゼミ

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建設資材や家庭用品をはじめ、さまざまな用途に使われてきたアスベスト(石綿)がもたらす健康被害については多少の知識はあったが、この作品を見てあらためて大きな問題だと感じた。

肺癌や中皮腫などの病気で亡くなる人もいるほどの被害状況にもかかわらず、国は経済を優先させてきた。法的規制がされた今後も、さまざまな形で被害が広がっている。「自分は関係ない」と思っていても、思わぬところで知らないうちに被害を受けてしまう可能性もある。そして発病するまでに30〜40年かかる場合もあり、亡くなっていく人が、これからどんどん増えていくとされている。

この映像作品は、そうした問題をわかりやすく説明している。社会の問題について考えたい人に観てもらえる作品としては及第点に達している。
アスベストの問題に関心が高い人たちが集まる集会などでは評価されるだろう。ただ、あまり関心が無い人達にも見てもらえるような工夫は、もっとしたほうが良いと思った。

この作品は5人でつくった作品だが、制作者の1人、古川さんは、重く、つらい取材ではあるが、あと1年半の学生生活の間、1人ででもこの取材を続けて作品をつくりたいという。映像制作を通して作者自身が変わって新たなチャレンジに向かっている。

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『たったひとりのお医者さん〜地域医療の現場から〜』
2015年/19分/企画・演出:新行希望 法政大学社会学部水島宏明ゼミ

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和歌山県日高郡日高川町寒川(そうがわ)にある寒川診療所で働く医師の出口雅枝さんと、その診療所に来る患者さん達との触れ合いを綴った映像作品。

撮った本人が関西弁のナレーションで、医師や患者さんにツッコミを入れるという、かなり風変わりで面白い作品だった。

いわゆる「限界集落」という言葉は適切かどうか迷うところだが、この寒川も人口が少なく高齢の方が多いところだ。
そこに派遣された出口さんと他の3人の診療所のメンバーは、患者さんたちに明るく振る舞い、患者さんとして来ているお年寄りの人たちもこの診療所に来る事でなごんでいるようだ。そんな感じがよくわかる、ほんわかしたアットホームな映像作品になっている。

医師の出口さんは、どんなきっかけでこの診療所に来たのか、もっと都会で勤めたいとは思わなかったのか、人口が減っている地域での医療についてどんな考えをもっているのか、将来どうしたいと思っているのか……、映像を観ていて知りたくなる事、聞きたくなることはいろいろある。
だが、そんなインタビューなどはしない。とにかくひたすら診療所でのやりとりや、体が弱っていて診療所に来られない人の家に診療に行くところを撮り続け、たまに「インタビュー」とは言えないような普通の会話をして、編集した映像にナレーションでツッコミを入れるのみである。

そして、医師の出口さんは、いつもよく笑っている。

たいした医療設備は無い診療所だから、ちゃんと検査する必要がある時には長時間かけて他の病院に行ってもらう。緊急の場合には、付近の街から救急車に来てもらうが、遠くて時間がかかるので間に合わない時もある。
「間に合わん時は、死んじゃう時もあるんとちゃう?」と、この時だけはちょっとインタビューっぽくなるのだが、出口さんは「そうやねえ」などと言って、それでも笑ってる。

いわゆる「限界集落」を社会問題として捉えたドキュメンタリーとは違う、時間も短い「小品」っぽい作品だが、一度観たら忘れられない作品になっていると思った。

報告文:小林アツシ
 
posted by VIDEO ACT! スタッフ at 15:32| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする