第92回 VIDEO ACT! 上映会 〜沖縄県名護市・米軍新基地工事のたたかい〜 報告文
上映作品:『いのちの海 辺野古 大浦湾』
報告:本田孝義
8月8日に翁長雄志沖縄県知事が亡くなり、当初、8月17日にも辺野古新基地に土砂搬入かと言われていたが、とりあえず土砂搬入はストップしている。そんな中で、8月28日に『いのちの海 辺野古 大浦湾』(2017年/71分/監督:謝名元慶福)を上映した。残念ながら参加者は少なく15人だった。
『いのちの海 辺野古 大浦湾』は、現在の新基地建設反対運動だけを取り上げるのではなく、辺野古、あるいは大浦湾の豊かな自然や歴史を丁寧に描いた作品だった。冒頭、大浦湾の空撮でエメラルド色に輝く海、水中撮影でクマノミやジュゴンが棲む美しい海であることがよく伝わってくる。この海が生物多様性に富んだ海であることが説明される。だからこそ、辺野古新基地建設で進む護岸工事のむごさ、抗議する人たちの切実さも強く伝わってくる。カメラはやがて、大浦湾にそそぐ川の河口にも目を向ける。ここにはマングローブの林が広がっており、山や海の汚れを浄化する作用を果たしていることが描かれる。2016年にオスプレイが墜落した名護市安部の海岸はウミガメの産卵地でもあった。
米軍基地は空き地に作られたわけではない。大浦湾にはかつて、大浦崎収容所があり4万人を収容し土地を奪ってキャンプ・シュワブが作られた。収容所ではマラリアの蔓延により命を落とした人が多数いたそうだ。沖縄戦のさなかにも戦後もアメリカは「銃剣とブルドーザー」によって土地を収奪して米軍基地を作っていった。こうした中でも、伊江島では阿波根昌鴻さんが唱えた非暴力運動によって基地建設反対運動が広がった。こうした沖縄の歴史がある中で1995年の少女暴行事件を契機として翌年、SACO(日米特別行動委員会)合意が結ばれ米軍基地の整理縮小が決まったが、普天間基地の返還と辺野古新基地がセットになってしまった。
『いのちの海 辺野古 大浦湾』は、辺野古地区の生活にも目を向ける。海と山に挟まれた場所なので、農耕地が少なく昔から半農半漁だったそうだ。ベトナム戦争の頃は米兵相手のバーもにぎわっていたが、今はその活気はない。辺野古で一番古いバーに残る米兵のサイン入り帽子と米兵が残していった一ドル紙幣がどこか物悲しい。
辺野古新基地建設を止めるための運動はゲート前と海岸で続いている。阿波根昌鴻さんが唱えた非暴力の運動はここでも継承されている。
この作品には鳩山由紀夫元総理のインタビューも収録されている。米軍基地を「最低でも県外」と言って沖縄の人たちの期待も高まったが、まったく進まなかった。鳩山さんは「日本の官僚の気持ちを変えられなかった」と自分の力不足を率直に語っている。(と同時に霞が関の官僚たちが沖縄に米軍基地が集中していることに何の疑問も持っていないことが伝わる言葉だとも思う。)また、亡くなられた翁長雄志沖縄県知事の、県民大会での力強い発言も記録されている。
『いのちの海 辺野古 大浦湾』は、最後、再び美しい自然を写して終わる。日々のニュースはどうしても政治的に何事かが起きた時だけ辺野古のことが伝えられるが、ニュースがない日にも当然、そこには美しい自然があり、人々の生活があり歴史がある。そういう当たり前のことを気づかせてくれる作品だった。
上映後は、今年何度も沖縄に行って取材をしている湯本雅典さんが、沖縄の現状を報告してくださり、観客とのディスカッションも行われた。
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