2020年、最初のビデオアクト上映会を2月6日に開催した。参加者は約20名でした。1998年から2か月に一度のペースでコツコツと開催してきた上映会は、今回で99回目。上映作品は『発酵する民』で、監督は平野隆章さんです。平野さんは普段、認定NPO法人OurPlanetTVのスタッフとして活躍されています。本作は、昨年末に開催された東京ドキュメンタリー映画祭2019長編コンペティション部門にもノミネートされ、新宿ケイズシネマで上映された話題となりました。
3.11の福島原発事故後、神奈川県鎌倉市で反原発デモをしていた人達が集い「鎌倉イマジン盆踊り部」を結成。踊りはもちろん、作詞作曲まで含めた、新しい盆踊りが作られていく過程を軸に人々の交流を描いたドキュメンタリーです。「鎌倉イマジン盆踊り部」に参加しているメンバーは、古民家を改装した手ぬぐいカフェ経営者や、パン屋さん、造り酒屋さん、アーティストなど様ざま。酵素風呂や、手作り味噌、塩焚きなど、生活を楽しみながら新しい盆踊りが作られていく。鎌倉の海や緑。そして光。優しい目線でとらえた映像が印象に残る作品です。
上映後のトーク。司会はビデオアクト主宰の映画監督、土屋豊さん。撮影は約8年ほどかかったという平野さん。被写体となった鎌倉の人々と出会ったのは、3.11以降。OurPlanetTVのスタッフとして反原発パレードを取材した時だとか。当時、他の反原発のデモや集会では、泣きながら叫ぶ参加者も少なくなかった。しかし、鎌倉のデモでは「原発さん、今までありがとう」とコールしていた。違和感を感じながらも惹かれた平野さんは、取材をするようになり、時にはカメラを持参せずに鎌倉へ通ったといいます。
変化が訪れたのは2016年。鎌倉へ通いだして5年が経過した頃、平野さんがスタッフとして働くOurPlanetTVでは、長編のドキュメンタリー映画制作のワークショップが開かれていました。ワークショップの講師は土屋豊さん。平野さんも受講生と参加したことを契機に、被写体である鎌倉の人々に「映画をはじめます」と告げたといいいます。このワークショップには、実は私も一度、撮影実技コーナーの講師として呼ばれ、参加している。企画のお披露目の際、平野さんから「発酵する民」の話を聞いたときのことを覚えています。
「3.11後に始まった、イマジン盆踊り部というのが鎌倉にありまして。発酵を重視されている人々で…」と話しはじめる平野さん。「イマジン?ジョン・レノン?想像の中でを盆踊りするをするのか…?発酵?」よくわからないけれど、正直一番惹かれました。
本作は、新しい盆踊りが生まれる過程をがっつり追った作品ではありません。3.11を経て新たに立ち上がった反原発運動、自然由来を重視した暮らし、有機的につながる人間関係。タイトル通りに地域社会が発酵し、それが盆踊りにつながっていく。腐敗がはびこる世の中。だから発酵する。観客も、心の中にあふれる想いを、ゆっくり発酵させることができる作品だと私は感じました。
「鎌倉イマジン盆踊り部」は現在も活動中で、全国各地のイベントや社会運動の集会の場に出演されているそうです。(報告文:土屋トカチ)