2020年11月06日

【報告文】第102回ビデオアクト上映会 〜フツーの運転手として/追悼・皆倉信和さん〜

ドキュメンター映像を撮っていると、その後、その被写体の人が亡くなってしまうという時もあります。

この『フツーの仕事がしたい』の主人公、皆倉信和さんは、2019年10月19日に亡くなり、今回の上映会は約1年たって追悼の意味をこめて企画されました。

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車が大好きな皆倉さん(撮影当時36歳)は、セメント輸送の運転手でしたが、一ヶ月に522時間(30日で割ると1日17.4時間!)という度を越した長時間労働をさせられていました。
家に帰る時間も無いぐらい働かされていたうえに「会社が赤字だから」と一方的に賃金を下げられました。

生活に限界を感じた皆倉さんは、藁にもすがるような思いで労働組合に相談しましたが、会社はヤクザのような男をつかって暴力によって組合から脱退させようとします。

労働組合との関係があった土屋トカチ監督は、組合の人に「暴力で組合をやめさせようとしている」という証拠になるような映像を撮ってほしいと依頼されます。
そして、皆倉さんが組合の脱退を強要されている映像を撮ろうとした監督も、会社側からの暴行を受けてしまいます。

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組合としては、期せずして証拠映像が撮れたので「もう撮らなくてもいい」との事でしたが、暴行を受けて魂に灯が付いた土屋監督は、この問題についての映像をこっそり撮り続けました。
発注元である組合の人に、撮影し続けている事を感づかれ「一度、見せてくれ」と言われて見せたところ「映像の権利は譲るから勝手に撮り続けていいよ」と言ってもらい、この作品が生まれることになりました。

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セメント業界は過積載(積みすぎ)が慢性化していて、それによる事故も続いていました。
下請けの会社に文句を言っても、構造的に変わらなければ改善しません。
そこで、労働組合が中心になって、もともとの発注をしている会社の前に巨大なスクリーンを貼って、実態を告発する映像を上映をしました。
社員は、驚きの実態の映像を食い入るように観ました。まさしく「ビデオ・アクティビズム」です。
その後、セメント業界は改善し、慢性化していた過積載は無くなりました。

皆倉信和さんは亡くなってしまいましたが、彼が一ヶ月に522時間という長時間労働をさせられていたのも、亡くなってしまった原因のひとつだったのかもしれません。

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話はさかのぼりますが、実は、私は土屋トカチ監督とは旧知の仲で、元はと言えば1997年に新宿駅西口の地下に「ダンボール村」があった頃、その人達の「新宿夏まつり」というのがあり、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットや朴保バンドなどが出演し、面白そうなのでスタッフとして参加して知り合いました。

その時、私は記録としてビデオを撮っていて、土屋トカチさんにもちょっと手伝ってもらいました。
その時の動画を勝手にYouTubeにアップしている人がいて、いまでも観られます。
https://youtu.be/prF92acFZIY

それがきっかけになって、土屋トカチさんが、私に「自分もビデオの仕事がしたい」と言い出しました。その時は「ビデオの仕事は、時間はかかるし、たいへんだからやめておいたほうがいいよ」と言った気がします。それでもやりたいというので「まずは仕事をやり方を覚えたほうがいいので、どこかの映像制作会社に入ったほうがいいよ」と偉そうに(笑)アドバイスしました。
ところが、映像制作会社で仕事をするのは、やはりなかなか大変で、彼は会社の車をぶつけて怒られたりしてその会社を辞め、次に入ったブライダル映像の会社の社長からは「お前みたいな奴は死ね!」とか言われたらしく、彼に相談を受けた私は、知り合いの関係で労働組合を紹介した事があります。

こうした体験が、土屋トカチ監督をたくましくしたのか、彼は労働問題をはじめ社会のさまざまな問題を告発するドキュメンタリーの映画監督としての才能を開花させました。
そして、なにより、皆倉信和さんを主人公とするこの『フツーの仕事がしたい』によって、ドキュメンタリーの映画監督として認められるようになりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E5%B1%8B%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%81

私は、土屋トカチ監督の10歳上で、知り合った当時は先輩風を吹かせておりましたが、いつのまにか、どんどん差を付けられてしまいました(苦笑)。
その理由は、いくつかあると思いますが、彼は「逆境に強い」という事と、皆倉信和さんと出会った、というのが結構、大きかったんじゃないかと思っています。
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posted by VIDEO ACT! スタッフ at 15:35| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする