3月30日(火)開催したビデオアクト上映会は、2020年12月6日未明に亡くなった映画批評家の木下昌明さんを追悼するかたちで行いました。木下さんは、直腸がんと前立腺がんを抱えながらも映画批評を続け、生前7冊の著書を発表。2003年より3分間ビデオ『娘の時間』『息子の場合』『三分間の履歴書』『育てる』など、15本の3分間ビデオを制作されてきました。木下さんはビデオアクトの上映会に何度も足を運んでいただきました。筆者をはじめ、何人もの映像制作者を励ましてくれました。
当日の参加者は30名。コロナ禍のため、会場入場者数の上限が30名とされているため満席で、予約の申し出をいただきながらも、参加のお断りさせていただいた方が多数おられました。この場をお借りし、お詫び申し上げます。
「3分間以内であることが条件。プロやアマチュアに関わらず、誰でも何でも表現してよい」というのが3分間ビデオのコンセプト。この企画は1999年の山形国際ドキュメンタリー映画祭へ、ビデオアクトとして参加する際に「誰もが応募できるオムニバス企画をやろうよ」と、ビデオプレスの松原明さんが発案しました。その後、ビデオアクトでは不定期ながら、10回の3分間ビデオ・オムニバス企画を実施。2002年よりスタートしたレイバーフェスタ(レイバーネット日本主催)でも、3分間ビデオのコーナーは欠かせないものとして定着しています。
「働きすぎの娘の身が心配で、証拠映像として撮りためた映像素材がある。これを3分間ビデオにまとめたい」
長年の友人である松原さんに相談したことから、木下さんの3分間ビデオ制作が始まったといいます。
「アドバイスはしたが、構成については木下さん自身が綿密な構成表を用意するので、いつもそれを元に編集していた」と上映後のトークで松原さんは制作の状況を明らかにしました。
「人生とは時間だ」が口ぐせだった木下さん。膨大な映画鑑賞と批評、知識を通し、生活者や労働者の視点を頑なに守り、社会や医療を捉えた映像群。プライベートな映像が軸だからこそ、木下さんの人生哲学が滲んだ映像は、まるで走馬灯のように広がります。さらにユーモアとロマンも上品に添えられ、実に濃密で味わい深いものです。ついに、木下昌明監督作品の映画が誕生したのです。今回の上映会用に一本化し『映画批評家の冒険』と名付け構成したのは筆者です。タイトルは木下さんの最初の著書『映画批評の冒険』より引用しました。
最後に。木下昌明さん、私はあなたを父親のように慕わせていただきました。あなたの勇気と知恵を習って、私も生きていきます。ありがとうございました。(土屋トカチ)
DVD『映画批評家の冒険』は、ビデオアクトのSHOPページにて頒布中です。