2021年05月16日

【報告文】第105回ビデオアクト上映会〜原発事故と有機農家〜

上映作品
『それでも種をまく』 制作:国際有機農業映画祭
『それでも種をまく 2019』 制作:国際有機農業映画祭


 5月11日、「原発事故と有機農家」と題された105回目のビデオアクト上映会が開催された。緊急事態宣言で人数制限された会場には、約20名の参加者が集まった。上映作品は、2011年3月11日の原発事故直後の有機農家を取材した『それでも種をまく』と、その8年後の彼女、彼らを追った『それでも種をまく 2019』の二本立てだった。

 この二本の作品の制作は、国際有機農業映画祭という全員ボランティアの市民グループ。有機農業や自然環境などに関心をもつ人々が集まり、毎年12月に映画祭を開催している。2011年3月の原発事故後、その年最初に開かれた映画祭の運営委員会で、メンバーの一人が言った。「有機農家は、“それでも種をまく”と言っている」。一同は驚いたが、「じゃあ、それを記録しよう!」という声があがった。映画を見せるのは“プロ”だが、作るのは“素人”の作品づくりが、こうして始まった。

 “素人”とは言え、もともと有機農業に関心があり、さまざまに活動に取り組んできた人たちの取材力は、映像の“プロ”以上だ。これまでのネットワークを活かしながら、苦境に追い込まれた農民たちの率直でリアルな言葉を拾い上げていく。

 「作付けして売れなかったら、それは作物で放射能を抜くというか、除染」と割り切り、福島にとどまって種をまく農民。福島をあきらめ、新しい地に移住した農民の不安と戸惑い。共同で放射能測定器を購入し、出荷する作物全てを自主検査する農民たち…

 有機農業は、生産者と地域、消費者、そして循環する生態系とのつながりの中にある。そのつながりを一瞬のうちに暴力的に断ち切った原発事故による放射能汚染。カメラは、そのつながりを取り戻そうと奮闘する人々の姿を丁寧に追い、8年後の取材では、次世代を担う若い有機農家も登場し、未来へとつなぐ。

 上映後は、映画祭の運営委員で、作品の撮影を担当された笠原眞弓さんにお話を伺った。笠原さんは、当初、「汚染された福島で野菜を作るなんて、信じられない…」と戸惑ったという。しかし、「なぜ、“それでも種をまく”のか?を批判しないで記録しよう」と心に決めた。その結果、それぞれの想いをつなぐ架け橋のような作品に仕上がったと思う。

 笠原さんは、福島にとどまった農家から麹を、新しい地に移った農家からは大豆を購入して、味噌を作っているという。旨そうだ。味わってみたい。
(土屋 豊)
posted by VIDEO ACT! スタッフ at 20:18| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする