2024年12月06日

【報告文】第125回 VIDEO ACT! 上映会 〜ずっと言えなかったこと〜 

 11月7日、第125回 VIDEO ACT! 上映会を開催しました。サブタイトルは「ずっと言えなかったこと」。上映は『トゥドル叔父さん(英題:My Uncle Tudor)』『言えなかった』の2作品です。ともに子どもや若者への性暴力を題材にした作品で、参加者は約20名でした。

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 『トゥドル叔父さん』はベルギーを拠点とする、モルドバ出身のオルガ・ルコヴニコヴァ監督の作品。2021年のベルリン国際映画祭短編映画祭等でも上映されています。
 『言えなかった』は和光大学映像研究ゼミの卒業制作として、蓮見卯乃さんが監督した作品。広く一般に向けて上映されたのは、今回が初めてとのことです。

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 5月末、筆者は所属事務所・ローポジションの仲間である飯田基晴さんに『言えなかった』を紹介されました。軽い気持ちで昼食をとりながら見始め、数分で後悔しました。制作者の本気度が、数多ある学生の作品とはケタ違いだったからです。監督本人が公開したいと考えているのならば、ぜひビデオアクトで応援したいと思いました。しかし、尺が30分に満たないこともあり、しばし保留状態となっていました。
 そんな折り、私もスタッフで参加しているレイバー映画祭のラインナップに『トゥドル叔父さん』が加わります。制作された国は違えど、子どもや若者への性暴力というテーマは同じです。2作品を併映することで、観客とともに考える時間が持てると思い、企画を進めました。

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 上映1本目は『トゥドル叔父さん』。オルガ・ルコヴニコヴァ監督の故郷、モルドバの自宅が舞台です。自宅には親戚一同が畑仕事をために集まっています。みんなが農作業に出かけた最中、トゥドル叔父さんと監督は二人きりになります。オルガ監督は幼い頃に、まったく同じシチュエーションの中、性被害にあいます。加害者はトゥドル叔父さんです。大人になったオルガ監督はカメラを手に、叔父さんに問答します。「幼い頃の私を覚えている?」と。
 心中は怒りや悲しみでいっぱいのはず。しかし、彼女の口調はとても抑制されています。叔父さんは、加害について問いかけに終始のらりくらりと、はぐらかします。二人の会話に、家の中の小物、壁の亀裂、毛虫や蜘蛛などの生き物、イメージ映像がインサートされていきます。被害を受けている最中、オルガ監督の目に映った風景なのかもしれません。映像は静かに観客へ問いかけます。

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 続いて『言えなかった』。映画監督・撮影監督の小林茂さんが講師を務める、和光大学映像研究ゼミでの卒業制作作品です。ゼミの選択に悩んでいた際、小林さんが性被害をテーマとしたドキュメンタリー映画を制作中と知り、ゼミに加入した蓮見監督。丸一日かけて、蓮見監督が一気に記したという原稿を軸とした本作。主演の稲吉あかりさんがナレーションを読みあげます。
 稲吉さんのモノローグに沿って、電車の車窓、街並み、花、踏切、海、空、公園、ゲームセンターなどのイメージショットが続きます。性被害に関する直接的な映像は避けられていますが、その分、モノローグの内容が観客の心にズシンと響く構成となっています。

 通常、ビデオアクト上映会では監督や関係者を招き、トークとディスカッションを行ってきました。諸般の事情で、オルガ・ルコヴニコヴァ監督の登壇は叶わなかったのですが、蓮見卯乃監督の登壇が可能となりました。そこから、蓮見監督、作品推薦者の飯田さん、ビデオアクトスタッフ間で話し合いを重ね、上映会の進行方法を次のように決めました。

@主題が非常にデリケートなものであるため、通常のビデオアクト上映会で行ってきた挙手による質問は受け付けない。
 事前に用紙を配布し、筆記による質問のみとする。
A質問内容によっては、答えられない、あるいは答えたくないものについて、蓮見監督が自由に選択できる。

 可能な限り、細心の準備をした上映後のトークとディスカッション。特に問題はなく、終始穏やかな雰囲気で進みました。

 「被害者だけ、つらい思いをした人ばかりが、なぜ闘わなければならないのか。根本的な解決とは言えないかもしれないが『あなたは一人ではない。理解しあえる仲間がいる。大丈夫』と本作で伝えたい」と語った蓮見監督。
 『言えなかった』は自主上映会を募集中とのことです。 (文責:土屋トカチ)

<追加情報>
『言えなかった』の主題歌のミュージックビデオもYouTubeで見ることができます。
監督は蓮見卯乃さん。歌と出演は、本作主演の稲吉あかりさんです。

【MV】心呼吸 - 稲吉あかり


posted by VIDEO ACT! スタッフ at 16:43| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする