石垣島の陸上自衛隊基地の開設をめぐる、住民投票運動をメインテーマに据えた湯本さんの作品は、本作が4作目。過去作に「沖縄と本土 一緒に闘う」(2020年)/「島がミサイル基地になるのか 若きハルサーたちの唄」(2021年)/「ドキュメント石垣島 2023年3月陸自ミサイル基地開設の瞬間」(2023年)/「ミサイル基地がやってきた 島で生きる」(2024年)があります。今回は、2018年から始まった石垣島の陸上自衛隊基地の開設をめぐる住民投票運動の解散集会を軸に、その理不尽な終焉について描かれています。

2018年10月、人口5万人の沖縄県石垣島で、平得大俣(ひらえおおまた)地域への陸上自衛隊配備の可否を問う、住民投票条例の制定を求める署名運動が始まります。その署名数は、わずか1か月で、島民の有権者の3分の1を上回る数に達しました。石垣市には独自に制定していた「自治基本条例」があり、それは「有権者の4分の1以上の署名を集めれば、市長は所定の手続きをふまえて住民投票を行わなければならない」というものでした。署名数は必要数をはるかに超えていたので、本来なら住民投票が行われるはずでした。
しかし、市は住民投票を実行しませんでした。加えて、裁判所も石垣市の行為が正しいという判決を立て続けに下していきます。そのからくりは、上記の過去作を順に追っていくと理解できるので、この報告文では割愛しますが、それはそれは、驚愕の連続。まるでホラーです。しかし、この事実が日本国内で、ほとんど報じられていません。これだけでも湯本さんの連作は非常に価値があるのですが、最大の魅力は住民投票運動を率いた若者たちの佇まいです。彼らは声高に基地反対を掲げるわけではありません。
「島の未来を一緒に考えましょう。話し合いましょう。そのために住民投票をしましょうよ」と呼び掛け、行動しただけです。
なのに石垣市議会や裁判所は、この機会を無理矢理に奪い去り、民主主義を破壊しました。私たちは、こんなにも困難な時代に生きているのかと、とことん思い知らされます。

今回の上映会には、沖縄の『辺野古』県民投票の会の元代表・元山仁士郎さんの姿もありました。彼自身が、石垣市の住民投票を行うための署名運動を手伝ったこと、そして映画の感想を述べた後、辛辣な発言がありました。
「この映画を広めることは意味はあるでしょう。しかし、映画を観たあと、皆さんは何をやるんですか?沖縄の基地問題は、自分ごとになりましたか?国政選挙の争点に一度でもなりましたか?この80年間、何も変わっていませんよ」と。
そして、彼が共同代表を務める「国民発議プロジェクト」の紹介がありました。国民発議とは、国民から政府や議会に対してテーマごとに法律を提案したり、成立した法律を廃止したりすることができる制度のこと。スイス、ドイツ、イタリア、アメリカ等には、この制度があるといいます。この国民発議を日本でも実現させるための運動が「国民発議プロジェクト」です。ウェブページに詳細がありますので、チェックしてみてください。

石垣島では、来年2026年2月に行われる市長選に向け、市長選挙候補者を選ぶ動きがあるそうです。湯本さんは、今後も石垣島での取材を続けていくとのこと。そのためにも、本作を含む湯本さんの作品が、全国でたくさん上映されることを心から願います。この夏は参議院選もあります。私たちもやるべきことが、山ほどありますね。(文責:土屋トカチ)
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