2025年07月14日

【報告文】第129回ビデオアクト上映会〜戦後80年、よみがえるヒロシマの声〜

上映作品
『もうひとつのヒロシマ−アリランのうた』 監督:朴 壽南(パク・スナム)

司会者が「大変残念なんですが、そろそろ時間なので…」と告げると、その人は「私いつも思うんですけど、これ言論弾圧じゃないですか!?」と笑った。そして、「今度はオールナイトでやりましょう!」と高らかに宣言した。――先日行われたビデオアクト上映会での『もうひとつのヒロシマ−アリランのうた』上映後のトーク&ディスカッションの一コマだ。声の主は御年90歳、本作監督の朴壽南(パク・スナム)さんである。

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在日コリアン二世の朴さんは、40代までは執筆活動で、50代からは記録映画で日本の植民地支配と戦争による犠牲者の声を生涯をかけて刻銘に記録してきた。今回上映した『もうひとつのヒロシマ−アリランのうた』は、その第一回目の監督作で、つくられたのは1986年、今から40年前の作品だ。作品内に登場する70歳前後のコリアン被爆者は1986年からさらに40年前、1945年の出来事について語る。いや、1945年のあの日に始まったことでは決してない。1910年から始まる日本による植民地支配、名前を、言葉を奪われ、「天皇の赤子」として民族の心を奪われたそれまでの人生について、静かに、しかし力強く語るのだ。その語り口、表情、仕草は、文字情報では決して表せない想いを観る者の心に深く刻み付ける。当時の朴監督は、年老いた父母の世代が次々と亡くなる中、彼や彼女らの沈黙の声を映像で伝えるために初の映画製作に取り組んだという。その試みがなければ、朴監督の子ども、孫世代である私たちは、沈黙の声を聞くことができなかった。引き継ぐことができなかったのだ。

「アンニョンハセヨー!」――上映後のトークは、朴監督の若々しい第一声から始まった。40年前の最初の上映会の時、ある監督から「映画はつくるだけでは完成しない。たくさんの人に見せて初めて完成する」と言われ、それ以来「見せる」ことに重点を置いてきたこと、上映会参加者の感想文は自分にとってはラブレターで、今でも大切に保管している宝物であること、私は記録映画と結婚した!など、時折ユーモアを交えて語られる朴監督の言葉のひとつひとつを聞き逃さないように、今回の上映会の約40名の参加者たちも熱心に耳を傾けていた。

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その中で私が印象に残ったのは、朴監督の原点の話だ。1950年、ストックホルムで開かれた平和擁護世界大会で核兵器禁止を求めるアピールが採択された。そのストックホルム・アピールは、全世界の人々に署名を呼びかけた。その署名運動に15歳の少女、朴壽南が出会った。上野公園の路上に大学生たちが原爆被害の写真を広げ、署名を募っている。しかし、通行人たちの多くは首をふり、署名に応じない。原爆反対は全ての人間の声だと思っていた少女は、大変な衝撃を受ける。1950年は、同じ民族同士が敵と味方に分かれて殺し合う朝鮮戦争が勃発した年だ。少女は、「この運動は、私がやらなければいけない」と心に誓う。それから75年、15歳の少女の信念は、今でも朴監督の心の奥に貫かれている。だから、力強い。

今回のビデオアクト上映会には若者たちも参加していた。上映会が終わった後、朴監督はその若者たちに囲まれ、オールナイトとはいかないまでも、長い時間言葉を交わしていた。こういう場所、機会をつくることで、歴史の声を引き継ぐことに少しでも力になれたのなら、ビデオアクトとしてこれ以上嬉しいことはない。
(土屋 豊)

★朴壽南監督のもとには、40年前から撮影し未公開のまま残されている膨大な16ミリフィルムがあります。その一部を復元して制作された『よみがえる声』が、8月2日(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開されます。監督は、朴壽南さんと今回のビデオアクト上映会にも登壇してお話し頂いた娘の朴麻衣(パク・マイ)さん。貴重な映画です。是非、ご覧ください!
『よみがえる声』(監督:朴壽南・朴麻衣/148分)

★今回の上映作品『もうひとつのヒロシマ−アリランのうた』も7月31日(木)〜8月15日(金)まで、シネマ・チュプキ・タバタで公開されます。
https://coubic.com/chupki/3736976

★朴壽南監督の過去作DVDは、ビデオアクト・ウェブショップでも販売しています。
『アリランのうた―オキナワからの証言』
http://www.videoact-shop.com/2014/348
『ぬちがふぅ(命果報)―玉砕場からの証言―』
http://www.videoact-shop.com/2014/352
posted by VIDEO ACT! スタッフ at 15:07| VIDEO ACT! 主催 上映会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする