(2022年/47分/監督:谷津賢二/製作:日本電波ニュース社)
連休明けの11月4日、第131回 ビデオアクト上映会を開催しました。約35名の参加がありました。
戦後80年ということもあり、ビデオアクトでは『もうひとつのヒロシマ−アリランのうた』(朴 壽南監督)、『戦争案内』(高岩 仁監督)と続けて、アジア太平洋戦争に関連した作品を上映してきました。
悲惨なアジア太平洋戦争そのの深い反省から生まれたのが日本国憲法。ならば、この憲法の理念を、人生を賭けて実践してきた代表的な人物は、医師の中村哲さんだったのではないでしょうか。
中村医師は2019年12月4日、何者かの銃撃によって亡くなりました。悲しい事件から、もうすぐ6年が経過しようとしています。この機会に中村医師の仕事について考えたいと、上映会を企画しました。
中村医師は1946 年、福岡市生まれ。1973 年に九州大学医学部を卒業後、国内の病院勤務を経て、1984 年にパキスタン北西辺境州の州都ペシャワールのミッション病院に赴任。まずは、現地の言葉を覚えます。貧困層に多いハンセン病や腸管感染症などの治療、難民キャンプや山岳地域での診療、山岳地域への診療所開設、総合病院開設等と、少しずつ活動を広げていきました。
2001年、欧米による9.11テロ事件への報復戦争が始まります。2003年、戦乱と干ばつが続く中、中村医師とアフガン人スタッフらは、クナール川から全長 25.5 キロの農業用水路を建設「緑の大地計画」を開始。中村医師は、一から土木工学を学びます。採用した工法は、日本の江戸時代からの伝統工法・蛇篭を使った治水事業でした。蛇篭とは、鉄線等で編んだ長い籠に砕石を詰め込んだもの。工事開始から7年後の2010年。ついに用水路が完成します。現在では、2万2200ヘクタール余の農地が回復・開拓されました。
用水路工事は雇用を生み、難民の帰還を促すとともに、農地の回復は彼らが農民として、平和に暮らせることを可能としました。その数は65万人を超えるといいます。荒廃した土地を緑に甦らせたプロジェクト「緑の大地計画」を、アフガニスタン全土へ拡大させる活動の最中、中村医師は命を奪われたのです。
撮影・監督を務めた谷津賢二さんは、1998年4月に中村医師の取材を開始。以後、21年間で25回、アフガニスタンでの中村医師の活動に密着しました。約460日間の取材。残された映像素材は約1000時間。NHKで放送した番組をはじめ、所属する日本電波ニュース社で制作された、中村医師に関する映像作品すべてを手掛けてこられました。
本作は、山岳地帯での医療活動、総合病院開設、用水路建設に苦闘する中村医師を軸に描かれます。軍用機が飛び交う空の下、用水路を農民たちと一緒にスコップやつるはしで手掘りし、護岸工事で大きな岩を砕き、運びます。用水路に水が流れていく様や、緑豊かな大地の美しさには目頭が熱くなりました。要所要所で引用される中村医師の言葉にも心打たれます。その一文を記します。
「私たちに確乎とした援助哲学があるわけではないが、唯一の譲れぬ一線は、『現地の 人々の立場にたち、現地の文化や価値観を尊重し、現地のために働くこと』である」
(中村哲「医者、用水路を拓く」より)
上映後は、監督・撮影の谷津さんを交えてのトークです。
あまり、メディアの取材を好まなかった中村医師は「私はドクターであって、アクターではない」と、日本から来たTVクルーを追い返したことがあるのだとか。それは「もっと貧しい人々の元を医療訪問してください」と、ディレクターから注文を受けたためだといいます。
21年間で、25回を数えた、谷津さんによる取材。結果的に最後の取材となった2019年の春。
「谷津さんの映像も役に立ったね」「谷津さんはジャーナリストじゃなかもんね」と、中村さんに言葉をもらったといいます。中村医師の傍で撮影することに徹し、指示やお願いをすることを谷津さんは一度もしなかったそうです。深い信頼関係にあることが、映像から伝わってきました。
中村医師の死後、谷津さんがアフガニスタンで取材している際、用水路の傍で「中村医師は、ここにいる」と感じたといいます。「私の後継者は用水路」と生前語っっていたという中村医師。今でも干ばつは続いていますが、用水路のまわりは豊かな土地となり、医療・支援活動も続いているとのことです。
本作『医師 中村哲の仕事・働くということ』は約5万人が鑑賞。90分の劇場版『荒野に希望の灯をともす』は約16万人が鑑賞しました。近年公開されたドキュメンタリー映画では破格の動員数です。映画「荒野に希望の灯をともす」は、新たな編集ヴァージョンとなる120分の英語版が完成。欧米での公開を控えているとのことです。(文責:土屋トカチ)
DVD『医師 中村哲の仕事・働くということ』ビデオアクトショップ
『荒野に希望の灯をともす』公式ページ

