VIDEO ACT!では、これまで湯本監督作品を12本上映してきました。15年前に小学校の教員を退職された湯本監督。ここ5年間は、年に1本のペースで60分程の中編ドキュメンタリーを発表されておられます。完成したその都度、ビデオアクトでは上映会を開催させていただいております。

今回の舞台は沖縄県石垣島です。防衛省は「中国の脅威」を強調。自衛隊配備の空白地帯を失くすといい、南西諸島における基地建設を急いでいます。奄美大島、沖縄本島、宮古島、与那国島には、すでに基地が配備され、稼動しています。そして現在、石垣島でもミサイル基地配備が進められているのです。石垣市市長は住民に説明を一切せず、自衛隊配備の受け入れ表明しました。住民は報道で知ることとなります。基地建設現場付近には水源があり、水質汚染も懸念されています。
沖縄で取材を続けていた湯本さんは、住民投票をはじめた若者たちと出会います。石垣島在住の金城龍太郎さん、伊良皆高虎さん、宮良央さんの3名です。彼らは高校時代からの仲間で、ギター、三線、カホンを演奏するバンド、ハルサーズとして活動もしています。ハルサーとはウチナーグチで「農民」のこと。彼らはみな、牛飼いや、ハーブティー加工販売、マンゴー栽培といった農業に従事しています。
「サラリーマンにあこがれていたが、自分が制作に関与していない商品の不備に頭を下げる日々に矛盾を感じ、家業を継いだ」という金城龍太郎さんは、父が開拓したマンゴー農園で働いています。
「ここで生活して、死んでいくことが夢。農業はこの島の基幹産業。農業をすることで、直接島に貢献できる」と語るのは、宮良央さん。インタビューで紡がれる彼らの言葉は、地に足がついたものを感じます。

2018年、彼らは仲間と共にミサイル基地配備の是非を問う住民投票運動をはじめます。彼らは住民運動の経験ゼロでしたが、小さな島で「賛成派」「反対派」と住民が分断されてしまうことを嫌い、まずは話し合うことからはじめようと訴えます。YouTube動画も活用しました。(これが中々面白い!)
ムードを変えようA/石垣住民投票を求める会事務局
地方自治法では、住民投票のための法定署名数の有権者の50分の1が必要であると定められています。彼らはその18倍を超える数である14,263票を集めたにも関わらず、住民投票は議会で否決されてしまいます。
しかし、石垣市には自治基本条例という独自の条例もあります。
28条第1項 有権者の4分の1以上の連署をもって市長に対して住民投票の実施を請求することができる。
同条第4項 市長は請求があったときには所定の手続きを経て住民投票をしなければならない。
彼らが集めた14,263票は、自治基本条例の定めた有権者数の4分の1を越えていました。否決ではなく住民投票を実施する義務があると、彼らは石垣市と交渉するも「すでに議会で議決済みである」とし、市は取り合うことをしませんでした。
その後、住民投票義務付け訴訟に踏み切るも、那覇地裁では請求却下。高裁、最高裁でも棄却されます。現在は、住民が投票することができる権利があることの確認請求する当事者訴訟が新たに始めました。一方で、島のミサイル基地建設は着々と進められています。

本作は、コロナ禍に取材をされたこともあり、作品としては取材不足を感じてしまうことは否めません。しかしながら、石垣島がミサイル基地にされようとしていることが、本土のメディアがほぼ伝えない今、貴重な報告映像集としての価値は大きいです。そして何よりも、ハルサーズの佇まいが魅力的です。今後も、湯本さんは彼らの取材を続けるとのことです。
本作のDVDは、湯本さんのサイトで入手可能です。上映権付で2、000円という破格の価格設定!東京在住の湯本さんが、頻繁に石垣島に通い、取材することは金銭的にも労力的にも大変なこと。是非、購入をご検討ください。そして、応援してください。 (報告文:土屋トカチ)
湯本雅典公式サイト https://yumo.blue/
湯本雅典ビデオ作品リスト https://yumo.thebase.in/